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李俊
〜 天寿の星の下で 〜


梁山泊には様々な人が集います。それが殆どは「魔物憑きの仲間は、自分が保護しなければ!」 という、宋江のはた迷惑とも言える過剰な責任感によるものであるというのは先に述べました。
しかし彼が自発的にそういった行動をとったのは「九天玄女」に遭遇した後のことで、それまでは 宋江の魔王としての運(あるいは人間としてのしょうもなさ)により、「偶然に知り合う」ことで 仲間を増やしていました。

ここで取り上げる李俊も、宋江が「たまたま出会った」人物の一人です。
たまたま、といっても李俊も魔物の宿った身である以上はその親玉である宋江と出会うことは 宿命的なものだったでしょう。あるいは李俊自身、宋江との出会いを予測していたかも知れません。
そんな二人の最初の出会い・・・きっと李俊は、はっきり覚えているでしょう。

宋江は毒を盛られてぐったりしていたのです。

しかも毒を盛ったのは自分の部下だったりして、もう「何でだよ」って感じだったと思われます。
今風に言うとなんでしょうねぇ・・・例えば運命の赤い糸というのが見えて、それをたどっていった女性が 居て、どんな人かなーなんて思って糸をたぐり寄せるとそこには違法ドラッグ一気飲みしてぶっ倒れてる オッサンが居た、みたいな感じでしょうかね。

えぇっと、それでですね、話を続けましょう。
最初の印象が最悪だと、それから先は良くなるだけなのか、李俊は梁山泊入りの後、しばらくは 良い活躍を見せます。彼は水軍提督として色々な戦いに功績を残します。
しかし梁山泊が政府軍に編入されてから、両者の関係は微妙にこじれてきます。それまでは 宋江がボスで、彼のくれる「信頼」という報酬に「成果」をもって答えていた李俊ですが、そのボスが 「大ボスは政府だ、皇帝だ」と言いだしたのです。しかもその大ボスは、自分にも宋江にも何の報酬も よこさなかったのです。

「こんな扱いが許せるのかよ、人として!」
「しょうがないじゃん、わしら魔物だもん」
「ああ、俺らは良いさ。だがほかの奴らはどうなる?俺達を信頼して、死んでしまった部下達は! あいつらは、俺達の”転生”とやらの犠牲になる必要が・・・あったってのかよ!」
こんなやりとりが・・・ある訳ないのですが、両者の隔たりはそんなところにあったのかもしれません。 つまり宋江は「山賊上がりで、実は魔物」という境遇を引け目に感じ、報われなくとも人一倍 働くしかないと思っており(プラスそうすることがほかの仲間のためにもなると盲目的に信じており)、 李俊には彼のそういうところが理解できなかったのでしょう、人として。

他者に対し盲目的に自己犠牲を行い続ける宋江と、他者との相利共生を望み、それが叶わなければ 棲み分けも辞さない李俊・・・彼らの隔たりは、政府軍としての使命がすべてが終わったときに、 最高潮に達します。李俊は都に凱旋する宋江と別れ、新たな冒険の旅に出ます。自分が真に望む 世界を探し、創り出すために・・・

その後宋江は信じていた政府に裏切られ、命を落とします。
一方、李俊は異国の王になったと伝えられます。自分が生きる道を探した末、多くの人を生かす道を 見つけたのです・・・人として。魔物としてではなく。
李俊の魔物としての格は宋江に劣っていました。それゆえ宋江の指示には逆らいませんでした。しかし 宋江という束縛から解放された彼は人として生き、結果宋江以上の地位を手にしました・・・彼は宋江を 殺した政府に、自分の地位を認めさせたのでした。宋江とは、違ったやり方で。

でもそれって…宋江のやり方、婉曲的に作者から否定されてるってこと?

 

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