本当に、恐ろしゅうございます。
我ら道士の総本山が貴渓県は竜虎山に在りますことは、皆様も
御存知のことと思われます。
また先日、その竜虎山に洪大尉様が皇帝陛下の勅使として登り、
張天師様に悪疫を払う儀式を執り行う勅命をお届け遊ばしたことも、
皆様よく御存知のことと思われます。
しかし洪大尉様は勅命をお届けになることよりも遥かに重大な事を、
しかもそれは、将来この大宋国を大きく揺るがす事件の発端になる
であろう、あぁそれくらいに重大なことを……
………………申し訳ございません。
実は私、こんな身なりをしておりますが、実は道士ではないのです。
とんでもない大嘘つき、大法螺吹きのペテン師でございます。
これから先の話は、全ては法螺吹きの戯言としてお聞き流し下さい。
良いですか。決してこれを本気にせず、他言なさらぬとお誓い下さい。
他言した結果笑われても、また笑われる以外の結末を迎えても、
この大嘘つきには、もはやどうすることもできませぬので…………
我ら…いえ、道士たちの総本山である竜虎山の上清宮、その一番奥に
伏棒之殿という建物がございます。
勅命を果たした洪大尉様は、この建物に異様なまでの興味をお示し
なさいました。扉には封がなされ、久しく閉ざされたままである魔宮に
どういうわけか心惹かれたのでございます。
役目を終えたとはいえ、勅命を持って参じた大尉様が仰せになる事は
すべて皇帝陛下の勅命であるとされます。道士達は封印が解かれる
ことを恐れましたが、洪大尉様の命令に…その後ろにおわす陛下の
命令には背くことはできませんでした。
やがて扉の封印が解かれると、洪大尉様は喜んで中へとお入りに
なりました。大尉様のお心を更に喜ばしめたのは、そこに収められた
石版に刻み込まれた四字の預言……「遇洪而開」でございました。
「見よ、この封印は儂の手によって開かれる定めであったのだ」
そう仰せになると、洪大尉様は石版の下にあるものを調べるよう、道士に
命ぜられました。道士たちもここまでくると逆らう気力もなく、言われるが
ままに石版を、徐々に徐々にずらしはじめたのでございます。
すると、どうでしょう。
石版の下から、突如まばゆいばかりの光がほとばしりました。
力を込めて石版を動かしていた道士達も、それを眺めていた大尉様も、
皆その強い光に当てられ、しばし呆然としておりました。
天に三十六、地に七十二。
併せて壱百零八の魔棒が今、
長きに渡る封印を解かれ、
野に放たれたのでございます。
そのことを知り、洪大尉様は怖れおののきました。
そして「今日の事は他言無用。いずれより漏れても竜虎山の道士は
全て誅殺す」と最後の”勅命”を残し、彼の地を去ったのでございました。
108の魔棒…
ひとたび野に放たれれば、それはありとあらゆる味へと変化を遂げ、
必ずや世の食生活に乱れを生じるであろうとされる魔棒が、この
大宋国のいずこかに潜んでおります。
今のところは棒たちの魔心が目覚める気配はございません。
しかし、これらの棒が己の魔心に目覚め、それに支配されたときは…
……真実と、お思いになりませぬように。
決して真実と、お思いになりませぬように……